生成AIで変わる授業づくり――ある英語教師の実践から学ぶ
- 自習ノート2
- 11月21日
- 読了時間: 11分
「生成AIを授業に取り入れてみたいけれど、何から始めればいいのか分からない」「本当に効果があるのだろうか」そんな声が教育現場で聞かれるようになって久しい今日この頃。実際に生成AIを授業に取り入れ、子どもたちの学びに変化をもたらしている先生方がいます。
目次
きっかけは先輩教師からの学び
この先生が生成AIを授業に取り入れようと思ったきっかけは、同じ学校の英語科の先生が積極的に活用している姿を目にしたことでした。「先輩の先生が結構使っていらっしゃって、色々教えてもらいながら、私も取り入れなければと思ったんです。」
生成AIに対する「本当に効果があるのだろうか」「使いこなせるだろうか」という不安は、多くの教員が抱く共通の思いです。
しかし、身近な同僚や先輩が実際に使っている様子を見ることで、「自分にもできるかもしれない」という前向きな気持ちが生まれたといいます。
特に、授業の合間や放課後に気軽に質問できる関係性があったことが、大きな後押しになりました。
教師間の情報交換や協力体制が、生成AI活用のスタート地点になったのです。一人で始めるのではなく、周囲と学び合いながら進めることで、不安を軽減し、より効果的な活用方法を見つけることができます。
具体的な活用場面〜毎授業で使うTerra Talk
Terra Talk:子どもたちの「声」が変わった
この先生が最も頻繁に活用しているのが、AI英会話ツール「Terra Talk」です。Terra Talkは、AI講師と英会話をロールプレイ形式で学べるアプリです。発音や苦手分野を自動分析し、24時間会話練習ができます。2年生の英語授業では、定期的にこのツールを使っています。
主な活用場面
単語の確認
発音の練習
パフォーマンステストに向けた会話練習
家庭学習の課題
特筆すべきは、子どもたちの取り組む姿勢の変化です。
「子どもたちの声の大きさが圧倒的に変わったんです。ある程度の大きさや発音のきれいさがないとAIが反応してくれないので、自然と大きな声でしっかり発音するようになりました。」
これは英語教育における大きな課題の一つでした。
恥ずかしさから小さな声で英語を話す生徒が少なくありません。
しかしTerra Talkは、一定以上の音量と明瞭さがなければ認識してくれないという特性があります。この「AIが聞き取れる声」という明確な基準が、子どもたちに自然な形で大きな声を出すことを促したのです。
教科書の本文を読んだ後は、発音、流暢さ、イントネーションなどの項目ごとに点数が算出されます。この即座のフィードバックが、子どもたちの意欲に火をつけました。
「より高い点数を取りたいという気持ちが自発的に湧いてくるんです。
もちろん、『何度も挑戦してもいいよ』という教師側の働きかけもありましたが、子どもたち自身が進んで練習を繰り返すようになりました。」
従来の授業では、教師が一人ひとりの発音をチェックするには限界があります。
しかしTerra Talkを使えば、すべての生徒が同時に、自分のペースで、何度でも練習できます。
しかも、その都度フィードバックを受けられるのです。
人前で英語を話すことに抵抗がある子どもでも、AIが相手なら恥ずかしがらずに何度でもトライできる。この心理的安全性が、英語学習における大きなメリットとなっています。間違えても大丈夫、という安心感が、積極的な挑戦を後押ししているのです。
夏休みの課題で見えた抜け道
Terra Talkを夏休みの課題として出した際、利用時間を1000分などと設定していたところ、抜け道を見つけ、時間数だけかせいだ生徒がいたそうです。
「不正を働いた生徒がいたんです」と先生は苦笑しながら振り返ります。
これは一見ネガティブなエピソードに思えますが、こうした経験を通じて、情報モラルやルールの大切さを考える機会にもなりました。
ChatGPTで教材開発の時間を大幅短縮
5分で完成する単語練習問題
授業準備においても、生成AIは大きな力を発揮しています。
この先生はChatGPTを使って、単語の練習問題を作成しています。
「これまでは問題を1から作るのに1時間程度かかっていましたが、ChatGPTを使えば5分ほどでできます。修正も簡単にできるので、とても助かっています。」
浮いた時間は何に使われているのでしょうか。
「Unit全体の教材開発や、まとめの活動案を考えることに時間を使えるようになりました。つまり、教材研究の時間そのものが増えたんです。」
単純作業を効率化することで、より創造的で本質的な教材研究に時間を割けるようになった。これは教員にとって大きなメリットです。
ミニマルチャンクメーカーで記憶に残る教材を
「チャンク読み」の教材開発には、ミニマルチャンクメーカーを活用しています。チャンク読みとは、英文を意味のまとまり(チャンク)ごとに区切って読む学習方法です。
たとえば「I went to the library / to borrow some books / for my research project」というように、意味の切れ目で区切ることで、英文の構造が理解しやすくなり、記憶にも定着しやすくなります。
「チャンクごとに教材を作るのは大変な作業ですが、このツールを使えば短時間で作成できます。最初から作るより確実に時間短縮になります」
長文を適切な位置で区切り、視覚的にも分かりやすい教材に仕上げるには、通常であれば相当な時間がかかります。
一文ずつ意味を考えながら区切り位置を決め、レイアウトを整え、印刷用のデータを作成する。この作業をミニマルチャンクメーカーが短時間で行ってくれるのです。
教材の「質」を高めることへの意識変化
生成AIを使い始めて、先生自身の意識にも変化が生まれました。「以前は、苦労して教材を作ったことに満足してしまっていたところがありました。でも今は、AIが大本を作ってくれるので、その分、改善することに集中できるようになったんです。」
これは教育現場における大きなパラダイムシフトです。多くの教員が、限られた時間の中で教材を「完成させること」に追われています。
授業準備に何時間もかけ、やっと形にした教材を使って授業を行う。
その達成感はあるものの、「もっと良くできたのではないか」という思いが残ることも少なくありません。
しかし生成AIを活用することで、教材作成の時間が大幅に短縮されます。
その結果、「作ること」から「より良くすること」へと、意識と時間を振り向けられるようになったのです。
作ることに費やしていたエネルギーを、「どうすればもっと分かりやすくなるか」「どうすれば子どもたちの興味を引けるか」「どうすれば学びが深まるか」という本質的な問いに向けられ、教材の質の向上に直結します。
「質を高めることにつながった、という実感があります。」この言葉からは、生成AIが単なる時短ツールではなく、教育の質を高めるパートナーとなりうることが伝わってきます。
教員としての専門性を発揮する場面が、「作業」から「創造」へとシフトしているのです。
苦労した点と今後の課題
生成されたものをそのまま使えないこともある
「スライド資料などを作ろうとしたとき、作ってはくれるのですが、後から調整が必要なことも多いです。
自分自身が慣れていなかったということもありましたし、自分の望むものができなかったこともありました。」
生成AIは万能ではありません。
特に視覚的な資料やレイアウトが重要なものは、人間の手による調整が必要になります。
色の組み合わせ、フォントサイズ、情報の配置など、細かな部分は教師自身の感覚で修正する必要があります。
しかし、完全にゼロから作るよりは確実に効率的です。
大枠をAIに作ってもらい、細部を自分で調整するというハイブリッドな方法が、現実的な活用スタイルといえるでしょう。
この「叩き台」があることで、アイデアが広がり、より良いものを作るきっかけにもなります。
対話練習の機会をもっと増やしたい
現在の課題として挙げられたのは、パフォーマンス課題の機会が少ないこと。「人に近い形で対話練習ができればいいのですが。」と先生は語ります。Terra Talkは個人の練習がメインで、協働学習には向いていません。
人対人の対話を分析できるような機能があれば、さらに学びが深まる可能性があります。
学校全体での広がりと教師間の差
AIに対する批判はないが、活用には差がある
この学校では、生成AIに対する批判的な声は聞かれないといいます。
一方で生成AIの活用には教師間に差があります。新しいツールの導入には、個々の教員のスキルや関心、時間的余裕など、さまざまな要因が関わってきます。
「教材のたたき台を作ってくれるのは時間短縮につながるのに、と思うこともあります。」と先生は話します。
学校では、研究主任によるAIの研修が実施されており、これが効果的だったといいます。「どういうものを使っているのかを知ることから始めることが大切です。」
先生自身も、「研修会や発表の際に使ってみたい」と、校務への広がりを視野に入れています。
プロンプトの重要性――簡単な言葉でも驚きの結果
生成AIを使いこなす上で重要なのが、「プロンプト」と呼ばれる指示の出し方です。
「思っている以上にいいものができるんです。簡単な単語を入れただけでも、思った以上のものを作ってくれます。親しみやすそうな資料やスライド、自分にはないものを作ってくれることもあります。」これは多くの教員にとって励みになる言葉です。
「プロンプトエンジニアリング」という専門的なスキルが必要なのではないか、複雑な指示を出さなければ良い結果が得られないのではないか。そんな不安を抱く方も多いでしょう。
しかし実際には、シンプルな言葉で十分に効果的な教材が作れることも多いのです。
「中学2年生向けの現在完了形の練習問題を10問作って」
「この英文をチャンク読みできるように区切って」といった具体的で分かりやすい指示で、使える教材が生成されます。
一方で、より効果的に活用するには学びも必要だといいます。
「プロンプトの入れ方は学んでいく必要があります。そういった研修が欲しいですし、研修機会を逃さないようにしてほしいです。」
どのような情報を含めるべきか、どの程度具体的に指示すべきか、どんな言い回しが効果的か。これらは経験を通じて学んでいく部分です。
研修や同僚との情報交換を通じて、より効果的なプロンプトの作り方を身につけることができます。
生成AI時代に必要な学びとは
今回の取材を通して見えてきたのは、生成AIが教育現場にもたらす変化の大きさです。
単に作業を効率化するだけでなく、教師が本来時間をかけるべきこと。
教材の質を高めること、子どもたち一人ひとりの学びに向き合うこと等に集中できる環境を作り出しています。子どもたちにとっても、AIとの対話を通じて、恥ずかしがらずに何度も挑戦できる環境が生まれています。
即座のフィードバックが学習意欲を高め、自律的な学びを促進しています。さらに重要なのは、生成AIの活用を通じて、教師自身が「より良い教材とは何か」「効果的な学習環境とは何か」を考える機会が増えることです。
AIが作ったものを吟味し、改善していく過程で、教師の教材研究力そのものが磨かれていくのです。
読者の皆さんへ〜まずは「知ること」から始めよう〜
「生成AIは難しそう」「何から始めればいいか分からない」そう感じている先生方も多いかもしれません。
しかし、今回取材した先生も、最初は同僚や先輩から学び、一つずつ試しながら活用の幅を広げていきました。完璧を目指す必要はありません。
始めるための第一歩
同僚と情報交換する ― 既に使っている先生がいれば、どんな使い方をしているか聞いてみましょう
研修会に参加する ― 校内研修や教育委員会主催の研修を積極的に活用しましょう
小さく始める ― まずは単語リストや簡単な問題作成など、小さなことから試してみましょう
プロンプトを学ぶ ― 効果的な指示の出し方を学ぶことで、成果が大きく変わります
生成AIは、私たち教師の仕事を奪うものではありません。
むしろ、より良い教育を実現するためのパートナーです。
子どもたちの学びをより豊かにするために、そして私たち教師自身がより創造的な教材研究や授業づくりに時間を使えるようにするために、生成AIという新しいツールを味方につけてみませんか。
まずは一歩。あなたの教室でも、きっと新しい学びの風景が生まれるはずです。
今回はこれで終わりです。次回もお楽しみに!
<自習ノートについて>
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それでは、また次回の記事でお会いしましょう!





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