生成AIを活用した数学の学習方法とこれからの教師のあり方
- 自習ノート2
- 3 時間前
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はじめに
私は私立の中学高校で数学科教員として勤務しています。ここ1、2年の間に、教育現場の風景は大きく変わりました。
ChatGPTやGeminiなどの生成AIが急速に普及し、生徒たちが日常的にAIに触れる光景が当たり前になっています。
生徒の様子を見ると、わからない問題があればすぐにタブレット端末を取り出し、生成AIに質問している姿を目にします。
学習においても生成AIを活用する場面は確実に増えています。
問題の解き方や考え方を生成AIに解説してもらい、その内容を咀嚼しながら自分の理解に落とし込んでいく、そんな新しい学習スタイルを実践する生徒も出てきました。
目次
一方で、教員として看過できない現実もあります。
宿題で出された問題をそのまま生成AIに入力し、出力された解答をそのまま写して提出する。
いわば「宿題代行」として生成AIを使う生徒も、少なからず存在しているのです。このような使い方は、本来の学習目的からは大きく外れています。
生成AIという新しいツールは、使い方次第で学びを加速させる強力な味方にもなれば、思考を停止させる「魔法の箱」にもなり得ます。私たち教員は今、この技術とどう向き合い、どのように生徒を導いていくべきなのでしょうか。
本記事では、数学科教員として日々生徒が生成AIを活用している様子を実際に観察してきた経験を基に、これからの時代に求められる教師のあり方について考えていきたいと思います。同じ教育現場に立つ皆さんと、この大きな変化の波にどう対応していくか、一緒に考える機会になれば幸いです。
実際に生徒たちは生成AIとどう向き合っているか
ここでは筆者が授業を担当しているクラスの出来事を紹介します。
中学1年生クラスの場合
数学の授業には、新しく学んだ概念を定着させるために、計算や練習問題を解かせる「演習」という場面が必ず存在します。
これは数学という科目の特性上、避けて通れない重要なプロセスです。
従来であれば、生徒が問題を解いている間、私たち教員は教室内を歩き回る「机間巡視」を行い、手が止まっている生徒に声をかけたり、質問に答えたりしていました。
しかし、ここ数年の「一人一台端末の利用」により、教室の風景は大きく変わりました。
各生徒がタブレットやノートPCを持つようになったことで、わからない問題に直面したとき、すぐに手元の端末を開いて自分で疑問を解決しようとする生徒が増えてきました。
因みに筆者は演習の場面でも、分からない問題に対して積極的にタブレット端末を使って調べながら解いても良いと指導しています。ここは数学科教員としては賛否が分かれる所ですが、数学の問題を解く上では何よりも理解をした上で解き、自分のものにすることが大事であると考え、そのように指導しています。
ある日の演習時間、一人の生徒がタブレットに向かって問題文を入力し、「この問題の解き方を教えてください」と生成AIに質問している姿を目にしました。
画面には丁寧な解説が表示され、その生徒はそれを読みながら自分のノートに手を動かしています。
その一方で、生成AIに問題を解かせて、そのまま解答を写すという生徒も少なからず存在していました。
AIが出力した答えをただノートに書き写しているだけで、途中式の意味も理解していない様子の生徒が数名いたのです。
質問をしてみると、「何でこうなるのかはわからないけど、答えは合っているから大丈夫です」という返答が返ってきました。
このままでは、数学の学習としての演習の意味を全く成さなくなってしまいます。かと言って、生成AIという強力なツールが目の前にある今、大切なのは「使わせないこと」ではなく、「正しく使えるようにすること」だと私は考えました。
そこでこのクラスでは、正しく生成AIを用いて数学の学習を進める方法をレクチャーすることにしました。 次の授業の冒頭で時間を取り、「生成AIとの正しい付き合い方」というテーマでミニ授業を行うことにしました。
質問の仕方を工夫する
まず生徒たちに強調したのは、「質問の仕方」です。
多くの生徒は、問題文をそのままコピー&ペーストして「解き方を教えてください」とだけ入力していました。
もちろんこれでも答えは返ってきますが、AIはあなたのことを何も知らない状態で、一般的な解説をするだけになってしまいます。筆者は生徒の前で「この問題の解き方を教えてください」と「私は中学1年生です。方程式を習ったばかりで、まだ移項がよくわかっていません。この問題の解き方をわかりやすく、ステップごとに教えてください」の2つの例でそれぞれ実践してみました。
違いは明らかです。後者では、自分が誰で、何がわかっていて、どのように教えてほしいかを明確に伝えています。すると生成AIは、中学1年生のレベルに合わせた言葉で、移項の考え方から丁寧に説明してくれるのです。
「AIは質問に答えるプロだけど、君たちのことは知らない。だから、自分のことを伝えてあげることが大事である」と私は生徒たちに伝えました。
ChatGPTの「学習モード」を活用する
多くの生徒が知らなかったのが、ChatGPTには「学習モード」という機能があることです。
通常のチャットモードでは、質問に対して端的に答えを返してくれますが、学習モードでは、より丁寧に、段階を追って教えてくれるように設計されています。
いきなり答えを教えるのではなく、ヒントを出したり、理解度を確認しながら進めたりと、まるで家庭教師のような対話ができるのです。
実際に授業中、学習モードを使ったデモンストレーションを見せると、生徒たちは「そんな機能があったんだ!」と驚いていました。
生徒たちの反応
このミニ授業の後、生徒たちの生成AIの使い方に変化が見られました。
「先生、学習モードで質問したら、めちゃわかりやすく教えてくれました!」「自分が中1だって伝えたら、前よりわかりやすい説明になりました」といった声が聞こえるようになり、ただ答えを写すのではなく、AIと「対話」しながら学ぼうとする姿勢が見られるようになりました。
生成AIは、使い方次第で学びの質を大きく変えます。大切なのは、教員がその使い方を適切に示し、生徒たちが自律的な学習者として成長できるようサポートすることなのだと、改めて実感した出来事でした。
高校3年生理系クラスの場合
一方で、同じく筆者が担当している高校3年生の理系クラスでは、生成AIの使い方に明確な違いが見られました。
高校3年生の授業では、2学期からは大学入試に向けた対策演習が中心となります。実践的な入試問題や応用問題に取り組む時間が増え、生徒たちは限られた時間の中で効率的に学習を進める必要があります。この演習の時間にも、タブレット端末を開いてChatGPTなどの生成AIを活用している生徒の姿が見られました。
しかし、中学1年生クラスとは明らかにその様子が異なっていました。単純に「解き方を教えてください」といった質問ではなく、「この公式の使い分けを確認したい」「この考え方で合っているか検証してほしい」「ここまでは解けたが、次のステップのヒントがほしい」といった、より高度で戦略的な使い方をしている様子が見られました。
つまり、答えそのものを求めるのではなく、自分の理解を深めたり、思考の方向性を確認したりするための「学習パートナー」として生成AIを位置づけている様でした。
さらに、「この問題の類題を難易度を変えて3問出してください」と生成AIに依頼し、自ら演習量を増やして理解を深めようとしている生徒も存在していました。教員が用意した問題だけでは満足せず、自分に必要な学習を自らデザインし、生成AIをその道具として使いこなしている――これは、まさに「自律的な学習者」の姿そのものでした。
中学1年生と高校3年生、この両者の生成AI活用の違いは、発達段階や学習経験の差を如実に表しています。適切な指導とリテラシー教育があれば、生成AIは学年が上がるにつれて、より洗練された「学びの道具」へと進化していくことを実感しました。
生成AI時代の数学科教員のあり方を考える
ここまで、中学1年生と高校3年生の実例を通して、生徒たちが生成AIをどのように活用しているかを見てきました。これらの実例からも明らかなように、生成AIは確実に生徒の「学習のパートナー」としての役割を果たすようになっています。
そしてさらに踏み込んで言えば、単純に知識や解法を教えるという行為だけであれば、生成AIで事足りるようになるのは時間の問題です。24時間いつでも質問に答え、何度でも繰り返し説明し、個々の理解度に合わせて言葉を選んでくれる――こうした「教える」という機能においては、AIは人間の教員を上回る利便性を持っています。
では、そういった時代に、私たち教師はどうあるべきなのでしょうか。
筆者なりの持論でありますが、その教科を通じて、生徒の「心」の部分に寄り添うことであると考えています。
知識や解法を伝えることは、確かに教員の重要な役割です。しかし、それだけが教育のすべてではありません。数学という教科を通じて、「こんな面白い見方があるんだ」「こうやって考えると世界が広がるんだ」という知的な驚きや喜びを生徒と共有すること。問題が解けたときの達成感、難問に挑む粘り強さ、論理的に考える楽しさ――そういった、数字や公式の向こう側にある数学の本質的な魅力を伝えていくことこそが、これからの数学科教員に求められる役割であると考えます。
また、その教科が生徒一人ひとりの成長にどう繋がっていくのかを、対話を通じて一緒に考えていくことも大切です。数学を学ぶことで論理的思考力が育つ、問題解決力が身につく、抽象的な概念を扱う力が伸びる――こうした「学びの意味」を、ただ抽象的に語るのではなく、その生徒の将来の夢や関心に結びつけながら伝えていく。そこには、AIには代替できない、人と人との温かいやり取りがあります。
生成AIは強力なツールです。しかし、それは「道具」であり、学びの「目的」ではありません。生徒が本当に心から「学びたい」と思える環境をつくり、その学びに伴走し、時に励まし、時に問いかけ、共に成長を喜ぶ、そんな存在として私たち教員はこれからも教室に立ち続けるのだと思います。





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