教頭として進める生成AI活用と授業改善の実践
- 自習ノート2
- 7 時間前
- 読了時間: 12分
データ分析と組織的支援で実現する、教師の授業力向上
目次
はじめに――組織的な授業改善への挑戦
学校現場において、教頭の最も重要な役割の一つが、教員の授業力向上を組織的に支援し、子どもたちの学びの質を高めていくことです。
本稿では、ある中学校のD教頭が、英語科の授業改善に取り組み、2年生のパフォーマンステスト、3年生の英作文を起点に、ベテラン教員と若手教員それぞれの課題に応じた支援を行い、市教委が準備した生成AIツールを効果的に活用した実践について紹介します。
この取り組みは、個々の教員の工夫を活かしつつ、組織的なマネジメントとして授業改善を推進した事例です。生成AI時代における教頭の役割や、組織全体で授業力を高めていくためのアプローチを考える上で、多くの示唆を含んでいます。
データ分析が開いた授業改善への道
本実践の最大の特徴は、パフォーマンステストの結果を詳細に分析し、授業改善のサイクルを回したことにあります。具体的には、スピーキングのパフォーマンステストを実施した後、結果を丁寧に分析しました。
単に点数を見るだけでなく、どの技能でつまずいているのか、どのような指導が効果を上げているのかを可視化し、授業者本人に通知したのです。
このデータに基づくフィードバックが、ベテラン教員の授業改善への具体的な道筋を示すことになりました。経験豊富な教員であっても、客観的なデータに基づく分析があることで、新たな気づきが生まれ、改善の方向性が明確になるのです。教頭の役割は、単に結果を伝えるだけではありません。
分析結果をもとに対話を重ね、どのような手立てが有効か、どのようなツールが活用できるかを一緒に考えていきました。こうした伴走型の支援が、生成AI活用という新しい挑戦につながっていったのです。
若手教員への個別支援と課題の把握
一方、ライティング指導の授業改善では、若手教員を支援することになりました。
D教頭は授業観察や対話を通じてこの先生の課題を把握し、ライティングに特化した生成AIアプリの活用を提案しました。
若手教員の熱意や工夫を活かしながら、新しいツールによって授業の質を高めていく。それが支援の方向性でした。ライティングに特化したAIアプリを使用した授業実践では、C、B層の生徒が、自分へのフィードバックを理解できなかったり、何をすべきかわからなかったりという実態が見えました。
そこで、D教頭は、「A、B層の生徒は、個別、協働で学習を進めると同時に、C、D層の生徒には教師が丁寧に支援をしながらライティング活動をしてみてはどうか」と提案しました。このように、ベテラン教員と若手教員、それぞれの特性や課題に応じた個別の支援を行うことが、組織全体の授業力向上につながっていくのです。
組織方針としての生成AI活用の位置づけ
重要なのは、これらの取り組みが個々の教員の個人的な工夫に留まらず、教頭主導の組織的な方針として位置づけられたことです。
なぜ生成AIを授業に取り入れるのか、どのような効果を期待するのか、どのように授業改善につなげていくのかという明確なビジョンを示しました。その上で、各教員の実践を支援し、成果を検証し、次の改善につなげていくというサイクルを回していったのです。
具体的な活用場面と組織的な支援
スピーキング指導における組織的な取り組み
スピーキング指導の授業改善では、D教頭の提案により年間を通じて対話型のAIツールを活用することになりました。
特に重視したのは、AIが生徒の発話を自動的に分析・評価してくれるという機能を、いかに教員の授業力向上につなげるかという点です。
生徒はAIアプリを使ってスピーキングの練習を行います。AIは生徒に対し、瞬時にフィードバックを行います。
また、蓄積されたAIによる分析結果を教員が確認し、それをもとに個別指導を行いました。このプロセスを通じて、教員自身が生徒のつまずきのパターンや、効果的な指導方法を学んでいくことができます。
定期的に授業者と対話し、AIの分析結果をどう読み解くか、どのような指導につなげるかをともに考えていきました。
成果として特筆すべきは、どの学力層の生徒も意欲的に取り組めたことです。
成果がトロフィーとして可視化されるという機能もあり、生徒は自分の成長を実感しやすくなりました。
この変化を観察し、授業者にフィードバックすることで、さらなる改善につなげていったのです。
ただし、AIチャット機能が開発中で不十分な部分があることなども把握しました。これらの課題も含めて授業者と共有し、次年度に向けた改善策を検討しています。
ライティング指導における成果の可視化と検証
ライティング指導の授業改善では、D教頭の働きかけによりライティングに特化した生成AIアプリを導入しました。
この生成AIアプリは、生徒が作った英文を読み込ませると瞬時に評価、フィードバックを行ってくれます。
従来であれば、教師が一人ひとり英文を読み、フィードバックをしていましたが、この作業が瞬時に行われるようになりました。
年間を通じて取り組む計画でしたが、技術的な難しさもあり、すべての単元で実施することはできませんでした。
しかし、業者テストの結果を継続的に分析したところ、顕著な成果が現れました。
得点が大きく伸び、白紙で提出する生徒が減少したのです。
さらに、利用履歴と成績の相関を分析すると、使えば使うほど点数が伸びるという明確な傾向が見られました。
このデータを授業者と共有することで、若手教員のモチベーションが高まり、次年度に向けてより充実した活用を計画することができました。
データを可視化し、成果を明確に示すことが、教員の自信につながり、さらなる挑戦への原動力となったのです。
一方で、効果には学力層による差があることも分析から明らかになりました。全国学調の四分位層で言う、A層、B層の生徒は効果を実感しやすい一方で、C層、D層の生徒には教師の直接的な支援が必要です。
この知見を授業者と共有し、AIと教師の役割分担を明確にしていくことも、重要な支援でした。
授業観察を通じた子どもたちの学びの変化
成長の把握と課題の共有
定期的に授業観察を行い、子どもたちの学びの変化を見取ることも重要な役割です。
使い方をしっかり理解している生徒は、学習意欲も理解度も高まっていることが観察から明らかになりました。
また、AIを効果的に活用するためには、AIリテラシー、言語力、用語の理解が重要であることも見えてきました。
特に文法的な理解がない生徒は、AIからのフィードバックを理解することができません。
この課題を授業者と共有し、基礎学力の定着とAI活用のバランスをどう取るかを一緒に考えていきました。
個別最適な学びと協働学習の実現
ライティング指導では、個別最適な学びが実現され、それが協働学習にも大きな成果をもたらしました。
1つの教室の授業の中で、個別に学びを進める生徒、友達と協働的に学びを進める生徒、先生と学びを進める生徒が同時に存在する授業が実現しました。
その過程で、生徒一人ひとりが自分のペースで学習を進めながら、互いの成果を共有し合う場面が生まれたのです。
一方、スピーキング指導では個人で練習する姿が中心となりました。
これは端末からの音声をイヤホンを付けて聞いているということも影響しています。
理想的なのは、AIで会話の練習をし、自信をつけさせた上で、ALTや教師との実際の会話に挑戦させることです。
AIで満点を取れたとしても、実際に生身の人間と会話できるかは別問題です。AIと人間、それぞれの良さを活かした学習デザインを授業者と検討していきました。
働き方改革の実現を組織的に推進
D教頭が特に注目したのは、子どもたちの意欲が高まった一方で、教員の負担が減ったという点です。これは理想的な状況であり、まさに働き方改革につながる実践だと言えます。
ライティング指導では、AIによる自動フィードバックが大きく貢献しました。教師の準備は過去問の分析や問題の準備が中心となり、一人ひとりの答案に赤ペンを入れる時間が大幅に削減されました。スピーキング指導でも同様のことが言えます。
これまでは、音読や課題のチェックに大きな時間がかかっていました。
特に音読のチェックでは、録音された生徒一人ひとりの音読をチェックしていました。
AIアプリの導入により、音読のチェックの時間が大幅に削減されるとともに、生徒が自分でフィードバックし、再挑戦をどんどんするようになったのです。
このような働き方改革の成果を可視化し、学校全体に共有していくことも重要な役割です。他教科への展開可能性も含めて、組織全体で効果的な実践を広げていく土台を作っていきました。
直面した課題と対応
AIツールの限界を理解した上での活用支援
実践を進める中で、いくつかの課題も見えてきました。
最も大きな課題は、AIアプリができることに合わせた授業づくりをすると、窮屈な感じになってしまうことです。
ライティングに特化した生成AIアプリには絶対に修正しようとする性質があり、また、レベル設定の難しさもアプリの課題として残っています。
教頭が重視したのは、できることとできないことのバランスです。
授業者に対して、AIに振り回されるのではなく、教師が主導権を持って活用することの重要性を伝え続けました。できることにメリットを見出し、できないことは教師が補う。この役割分担を明確にすることが、良い実践につながるのです。
安全面での組織的な配慮
セキュリティ、著作権、情報モラル面では、市教委が中心となって組織的な対応を行いました。
保護者への利用承認を得るプロセスを整備し、アプリ内でのセキュリティ対策を確認しました。
また、生徒にAIを使わせる際には、最初に使い方のレクチャーを実施するよう授業者に働きかけました。
記録が残るシステムになっているため、何か問題があった場合にも対応が可能です。このような安全面での配慮を組織的に行うことも、管理職としての重要な役割です。
今後の展望――組織全体での新しい学びのデザイン
一斉授業からの脱却を目指して
今後挑戦したいのは、AIを使った一斉授業からの脱却です。
できない生徒へ教員が手厚く支援していく一方で、できる子はどんどん進めていく。
そんな学習環境を組織全体で実現したいと、D教頭は言います。IRTの形で導入できれば、生徒が自分で自分にあった学習を進めることができます。
短い時間でも成果が出ることが分かってきており、この知見を学校全体の時間割編成や授業デザインに活かしていきたいと考えています。
生成AI時代に必要な三つの視点
生成AI時代に必要な学びとして、教頭の立場から見えてきたことは次の三点です。
第一に、「何のためにそれをしているのか」という動機づけです。各教員が明確な目標をもち、子どもたちのモチベーションを維持できるような授業デザインを支援していく必要があります。
第二に、メタ認知(振り返り)の設定です。これは今後も外せない要素であり、戦略的なプランをもって組織的に推進していく必要があります。
第三に、学びを生徒に委ねるということです。子どもの様子をチェックして、その子どもにあった支援をしていく。
この考え方を学校全体に浸透させていきたいと考えています。
このような取り組みは不登校対策にもつながり、「教室」という概念そのものが変わっていく可能性があります。そうした変化を前向きに捉え、組織全体で新しい学びの形を創造していきたいと考えています。
教職員へのメッセージ――管理職の立場から
最後に、これから生成AIの活用を考えている教職員の皆さん、そして組織的な授業改善を進めようとしている管理職の皆さんへ次のようなメッセージをいただきました。
まず、「こんなことがしたい」と思ったときに、AIに一度聞いてみることです。
なんとなく便利というのは分かっているが、具体的に何ができるのか、良さが何なのかを実感すると、使い方が見えてきます。
「すごいな」「便利だな」という小さな発見の積み重ねが、次のアイデアを生みます。
そして管理職の皆さんには、データ分析に基づく授業改善の重要性を強調したいと思います。
パフォーマンステストの結果を管理職自らが分析し、授業者にフィードバックする。
このサイクルを回すことで、組織的な授業力向上が実現します。
また、個々の教員の実践を個人的な工夫に留めず、組織方針として位置づけ、成果を可視化し、学校全体に広げていく。
このマネジメントこそが、これからの教頭に求められる役割だと考えています。
本実践は、組織的に授業改善を進め、データ分析に基づく教員支援と生成AIという新しいツールの活用を組み合わせることで、教師の授業力向上と子どもたちの学力向上を同時に実現した事例です。
生成AI時代において、教頭の役割は「組織をマネジメントする人」から「学びの変革をデザインし、教員とともに挑戦する人」へと変化していきます。
その変化を前向きに捉え、データに基づく支援と対話を重ねながら、新しい可能性に挑戦していくことが、これからの学校には求められているのです。
今回はこれで終わりです。次回もお楽しみに!
<自習ノートについて>
当社では教育機関向けの生成AI導入支援サービスも提供しています。
生成AIの導入からその効果的な活用方法、さらに継続的なパフォーマンス分析・改善までを一気通貫でサポートします。
最近開催した生成AI導入セミナーでも、多くの教育現場の方々からご好評いただきました。これからのAI活用にご興味のある方は、ぜひこちらのリンクよりお問合せください。
自習ノートのサービスについての詳細や、お問い合わせはこちらのリンクからどうぞ。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう!

