top of page
自習ノートのロゴ

AI時代の数学教育のあり方を考える

はじめに

2025年度の1年間を振り返ると、AIツールの進化はまさに目まぐるしいものがありました。テキスト生成から画像・動画の生成まで、わずか数ヶ月単位で新しいモデルや機能がリリースされ続け、「去年の常識が今年には古くなっている」という感覚を抱いた方も多いのではないでしょうか。


こうした流れは教育現場にも確実に波及しているように感じます。生徒がスマートフォンでChatGPTに数学の問題を解かせてくる、あるいは教員が授業準備にAIを使って問題を自動生成するといった光景が、もはや「先進的な取り組み」ではなく「日常」になりつつある学校も存在するのではないでしょうか。また、授業の中でAIツールを意図的に組み込んだ実践例も、ここ1年で急速に増えてきたと感じている先生方は少なくないはずです。


では、そんなAI時代の今、数学教育はどうあるべきか。 計算や手順の習得はAIに任せてしまえばいいのか。それとも、だからこそ人間が学ぶべき数学の本質がある。そういった問いに、現場の教員として向き合う時期が来ているのではないでしょうか。

本記事では昨年度を振り返った上で、AI時代における数学教育の在り方を一緒に考えていきたいと思います。現役の高校数学教員として日々授業に向き合っている皆さんにとって、何かひとつでもヒントになれば幸いです。


目次


学習ツールとしてのAIの副作用

筆者は以前、「生成AIを活用した数学の学習方法とこれからの教師のあり方」という記事を投稿させていただきました。


こちらでは、数学の授業での問題演習の場面で、生徒に演習の補助としてChat-GPT等のAIツールで、わからない問題について質問してみたり、解き方を確認したりといったことに活用してもらいました。中学1年生のクラスにおいて、授業の直後はこの記事にもあるように、生徒たちにとっては好評でした。しかし、この記事を投稿した後日に学年末考査があったのですが、その結果が想像に反したものになっていました。


もともと数学が得意とする生徒層については、安定もしくは以前よりも出来がよかったのですが、中間層以下については、思った程の成果が出ていない様だったのです。

テスト前の授業での問題演習の時間にもChat-GPTを用いてはいるものの、どの生徒も積極的に学習していました。しかし、その結果が点数に反映されていないことに疑問を感じ、生徒と再度フィードバックをしていったところ、いくつか問題点が浮かび上がりました。


①演習の際にAIが出してくる解答をそのまま転用して解答する。(つまり丸写し)②AIが出してくる解答を丸覚えする③AIと一緒に勉強したことに満足している(達成感を得ただけで習得できていない)

①、②については当初から懸念していたことで、すぐに解答を出してくれるという便利さ故の事だと思われます。授業内でも注意を促していましたが、いまいち生徒たちに浸透していなかったようです。これは、数学の授業に限らず、生徒にAI活用のリテラシーをいかに理解させるかといった所だと思います。


問題は③です。これはAIを使うことが目的となってしまっていて、AIを使って勉強することが楽しいだけで終わってしまっている状態だと思われます。達成感があるので勉強した気にはなるものの、いざテストとなると問題が解けない、すなわち、勉強した内容が定着していなかったという結果です。


逆に数学の学力が上位の層で、点数が安定もしくは伸びた生徒は、AIを活用して勉強していたとしても、やはり最後には自分で何も見ずに問題を解く「アウトプット」の作業は怠っていなかったようです。

以上からわかることは、学習ツールとしてAIを使うとしても、普段の学習習慣がきちんと身についていないと、その生徒の学力はつかないということです。AIツールも「問題集」や「参考書」と同様で、学習習慣を身に付けた上で正しく使わなければ意味がないということです。


AIが数学の問題を解く能力


昨年(2025年)の春「Chat-GPTが東大の合格点水準に到達!」といったニュースが話題になったのを覚えていますでしょうか?筆者もこの事実に少々驚きましたが、数学においては正解率40%前後とまだまだ課題ありといった見立てでした。(といっても一般の受験生で東大数学で40%の正解率は大したものですが・・・。)さて、この1年間でどれぐらい性能が向上したか・・・。

以下のような記事が上がっていました。

とうとう最難関の理科Ⅲ類を余裕で合格できてしまう様です。

そして、上の画像にあるように、驚くべきは正答率の高さです。数学については文系で満点、理系も80%以上の正答率です。東大の理系数学は一般に「半分とれば合格点」と言われるぐらい、難易度が高いです。(今年に至っては更に難易度が上がって、至上最難とまで言われています)


ここで分かることは、数学を解く能力で考えると、AIの性能はもはや一般の受験生どころか「一般の東大生」以上であるということがわかります。1年後にはもう理系数学ですら満点を取ってしまう可能性がありますね。


このように、数学を解く能力に関して言えば、もはやAIは人間の能力を超えていると言ってよいでしょう。そういった現実があるからこそ、AIとどう向き合っていくかを考える必要があり、生徒たちにはAIと共存するためのスキルを身に付けさせる必要があるのだと思います。


AI時代に求められる数学力

筆者は数学教員対象の勉強会にいくつか参加していますが、AI時代における数学教育のあり方がここ最近話題の中心に上ります。そういった中で、よく言われるのは、『AI時代に求められる学力とは、「答えを出す力」ではなく「問いを立てる力」だ』ということです。計算や解法の導出はAIが代替できる時代において、人間に求められるのは、何を問うべきかを自ら考える知的な構想力です。


数学教育においても、この変化は根本的な問い直しが求められています。これまでの数学教育は、公式や解き方を習得し、正解にたどり着くための手順を身に付ける「How型」が主流でした。しかし、今後求められるのは、「なぜその答えに行きつくのか」「その論理の根拠はどこにあるのか」を自分の頭で考え抜く「Why型」への転換だと考えられています。


「How型」から「Why型」へのシフトは、単なる学習スタイルの変化にとどまりません。それは、より論理的に筋道を立て、より創造的に問いを生み出す力を育てることを意味します。AIが「解く」ことを担う時代だからこそ、人間は「問う」ことに価値を置くべきであると考えます。数学はその力を鍛える、最も本質的な教科のひとつであるのです。


次期学習指導要領について

筆者は以前、こちらの記事も投稿しました。


この中でも現在中教審で議論されている次期高等学校学習指導要領についても簡単に触れましたが、その内容はカリキュラムの再編案もあり、AIとデータサイエンスに関する数学を前面に押し出そうといった案でありました。これは「AI・データサイエンスの基礎となる数学を、文理問わずすべての高校生に届けたい」という意思の表れだと感じています。

これに対して、学習量と現場の負担や、大学入試との乖離についてなど、教育現場からいくつか懸念点が上がっているようです。しかし、AI時代だからこそ、その時代に応じた数学教育が必要であるのではないかと考えます。


次期学習指導要領は告示が小・中学校が2027年、高校が2028年であると言われており、施行年(2030~2032年ごろ)を含めると4、5年後には大きく教育内容が大きく転換されている可能性があります。変化の激しい時代ですので、今後の動向に注視していきたいですね。


まとめ


AIの発達は目まぐるしく、私たちの生活や社会のあり方を急速に塗り替えています。数学教育もその例外ではなく、この変化の激しい時代において、いま大きな転換期を迎えようとしています。

何を学ぶべきか、どのように学ぶべきか——AIの登場によってその問い自体が根本から問い直されているいま、私たちには時代に即した教育のあり方を真剣に考えることが求められています。

この記事が、AI時代における教育について改めて考える、ひとつのきっかけになれば幸いです。


コメント


この投稿へのコメントは利用できなくなりました。詳細はサイト所有者にお問い合わせください。
bottom of page