修飾語の学習に「伝わった実感」を──生成AIが支える小学校3年生国語科の新しい表現活動──
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- 7 日前
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はじめに──修飾語の学びに潜む課題
小学校3年生の国語科で扱う「修飾語」。文を豊かにし、相手に詳しく伝える力を育む大切な単元ですが、子どもたちが「相手に本当に伝わったのか」を実感することは意外と難しいものです。
文章は頭の中のイメージを言語化したものであり、読み手の解釈は様々です。書き手が意図した通りに伝わっているかどうかを確かめることは、特に小学校中学年の子どもたちにとっては容易ではありません。
その課題に挑んだのが、ある小学校の3年生担任の先生です。授業に生成AIを取り入れ、子どもたちが「伝わる表現」を実感を伴って学べるように工夫した実践が注目を集めています。従来の国語科の授業では得られにくかった「確かな手応え」を、テクノロジーの力を借りて実現しようとする試みです。
目次
導入のきっかけ──「伝わる」の基準をAIに委ねる
この実践の原点には、N先生自身の体験があるといいます。
日常的にChatGPTを使用する中で、「伝わらないと、ほしい答えが返ってこない」というもどかしさを何度も味わったそうです。
プロンプト(指示文)が曖昧だったり、必要な情報が不足していたりすると、生成AIは意図とは異なる結果を返してきます。「これは子どもにも体験させられるのではないか。
修飾語の学習にうまく結びつけられるのではないか」と考えたのが出発点でした。
生成AIという新しいテクノロジーを、単なる便利な道具としてではなく、子どもたちの学びを深める存在として活用できないかという発想です。
AIを「読み手の代表」として位置づけることで、子どもたちに「伝わる・伝わらない」を可視化できるのではないかと考えたのです。
授業の流れ──修飾語が「効く」瞬間を可視化する
この授業は、2時間構成の小単元「修飾語を使って書こう」の2時間目に実施されました。
事前の授業で修飾語の定義やはたらきを押さえたうえで、次のステップとして「修飾語を使って文を書く」「相手に伝わっているかを確かめる」という活動を設定しました。
1時間目で学んだ知識を、2時間目で実際に使ってみるという構成です。
① 写真を見て、修飾語を使った文を書く
N先生が提示した写真は、3年生の語彙で説明しやすく、余計な要素が入りすぎないよう厳選したものです。例えば「青空の下のコスモス畑」「地面まで葉におおわれたイチョウ並木」のようなというシンプルな写真を手がかりに、まずは個人で修飾語を使った文を考えます。この段階では、子どもたちは自由に表現を考え、思い思いの修飾語を加えていきます。
② グループで文章を交流し、「もっとも伝わる文」を選ぶ
子どもたちはそれぞれの文を読み合い、どの表現が伝わりやすいか議論します。修飾語をただ増やせばいいというものではなく、本当に必要か・不要かを話し合うことがポイントです。ここでは子どもたちに、「生成AIで再現(生成)できるか」という目的意識をもたせることで、相手の立場に立って表現を吟味する力を養います。
③ 選ばれた文章を教師がChatGPTに入力し、画像を生成
グループ投票で選ばれた1文をN先生がその場でChatGPTに入力し、生成された画像を全員で確認します。この瞬間が、この実践の最大の山場です。子どもたちは、「自分たちの文から、AIはどんな絵を"解釈"したのか」という体験をします。まるで読み手の頭の中が目に見える形になったような感覚を得ることができます。
④ 生成画像と自分たちの文を見比べ、修飾語の働きを吟味
「思ったより花が多い!」「『赤い』って書いたのにピンクっぽい…」「周りの様子は言わなかったから、背景は想像で描かれたんだ」といった気づきが自然に生まれます。修飾語が足りなかったのか。それとも不要な情報を入れすぎたのか。生成AIが"読み手の代表"として文を解釈したことで、子どもたちは修飾語の本質である「伝わりやすさ」に目を向けていきました。この過程で、言葉の選び方や配置の重要性を、体験を通して理解していくのです。
子どもたちの変化──言葉を選び、文章を"じっくり"味わう
実践を通して見られたのは、子どもたちの学びに対する姿勢の変化でした。単に修飾語を使えるようになっただけでなく、言葉に対する意識そのものが変わっていったのです。
興味と関心の高まり
導入で「花が咲きました」だけをAIに入力して生成画像を表示すると、子どもたちからは「簡単すぎる」「もっと情報が必要」という声が自然に上がったそうです。
そこから、「花の色は?」「数は?」「どこで咲いている?」といった視点が自発的に生まれました。教師が一方的に教えるのではなく、子どもたち自身が「何が必要か」を考え始めたのです。この自発的な問いの発生は、学習意欲を大きく高める要因となりました。
「もっと詳しく伝えたい」「今度はちゃんと伝わる文を書きたい」という前向きな気持ちが、子どもたちの中に自然と芽生えていきます。失敗を恐れるのではなく、試行錯誤を楽しむ雰囲気が教室に生まれたといいます。
"わかりやすさ"の基準が明確に
人に読んでもらう作文では、読み手の主観が介在しやすいものです。
「上手だね」「わかりやすいね」という評価も、評価者によって異なることがあります。しかしAIは、同じ条件なら同じように解釈します。
そのため、子どもたちは文章を何度も読み返し、どの修飾語が最適かを真剣に吟味するようになりました。N先生によれば、「一つの文をここまでじっくり推敲する姿は、従来の授業では見られなかった」といいます。
生成AIという客観的な"読み手"が存在することで、子どもたちの学びの質が大きく変わったのです。
協働学習としての広がり──話す・聞く学習へも波及
子どもたちは、個人で書いた文を持ち寄り、どの文が伝わるか議論します。
「ここにこの言葉は必要?」「長くすると読みづらい」「2つ組み合わせるともっといいかも」と、自然に対話が生まれました。
当初、N先生は「文章を書く」力の育成を想定していました。しかし実際には、次のような広がりが見られたそうです。
お互いの文章を読み合うことで、話す・聞く力も向上した
不自然な長文に気づき、適切な量と構成を考える国語力が伸びた
生成画像の形(縦長/横長)から、構図や情報量について議論が始まった
単なる修飾語の授業ではなく、国語科の総合的な力へ波及している点が大きな成果です。
書く力だけでなく、読む力、話す力、聞く力といった、国語科で育成すべき様々な資質・能力が、この実践を通して育まれていったのです。
特に注目すべきは、子どもたちが互いの表現を尊重しながらも、率直に意見を述べ合う雰囲気が生まれたことです。
「こっちの方がいいと思う」という意見と、「でも、こういう理由でこの表現もいいんじゃない?」という反論が、建設的に交わされるようになりました。
協働的な学びの基礎となるコミュニケーション能力が、この実践を通じて育まれていったのです。
教師側のメリットと課題──AIの癖を踏まえた指導設計
もちろん、生成AIの活用には課題もあります。新しい技術を教育に取り入れる際には、必ず試行錯誤が伴います。
苦労した点
実践を進める中で、いくつかの困難もあったといいます。
同じチャットで複数回指示すると、情報を引き継いでしまい、似た画像が生成される
本来不足しているはずの情報でも、AIが推測して"それらしい絵"を出してしまう
時間内に操作を終えるための段取りが必要
特に、生成AIが過去の文脈を記憶してしまう特性は、この実践においては障害となることがありました。
また、AIが"忖度"して情報を補完してしまうと、子どもたちに「伝わらなかった」という体験をさせることができません。
それでもN先生は、「だからこそ、どんな情報が必要かを子どもと考える材料になる」と前向きに捉えていました。完璧なツールではないからこそ、子どもたちと一緒に試行錯誤する余地が生まれるという考え方です。
今後の展望──表現から物語へ、そして他教科へ
この実践はあくまで"入口"だといいます。今後は次のような活動にも挑戦したいと語っています。
AIが生成した絵を基に、4コマ漫画をつくったり、宝島の絵から自由に作った物語に挿絵を生成させる(国語科)
子どもに気づかせたい視点(色・構図・配置など)を強調し、ねらいに迫るための見本をAIで用意する(図画工作科)
学級のスローガンをもとに、クラスのキャラクターやマーク、曲などを作る(学級活動)
生成AIを"答えを出す道具"ではなく、学習者の思考を促す"対話相手"として活用していく姿勢が伺えます。国語科に限らず、図画工作科など他教科への展開も視野に入れており、教科横断的な学びへの可能性も感じられます。
同じように取り組む教職員へのアドバイス
最後に、N先生は次のように語りました。
ChatGPTの特性をふまえて使うとよい
過去の指示を引き継がないため、毎回クリアな条件で生成できます。
この実践のように、毎回同じ条件で試したい場合には特に重要なポイントです。
各グループの文章を公平に評価するためには、AIの「記憶」をリセットすることが欠かせません。
具体的には、グループごとに新しいチャットを開き、そこに文章を入力することで、前のグループの情報が影響しないようにします。少し手間はかかりますが、この一手間が実践の質を大きく左右します。
すべてをAIに頼ろうとしない
使う部分と使わない部分の取捨選択が重要です。
教師自身が使い続けることで、その見極めができるようになります。生成AIはあくまで道具であり、教育の主役は子どもたちと教師であるという原則を忘れないことが大切です。
例えば、この実践では画像生成にAIを使いましたが、文章の添削や評価は教師と子どもたちが行っています。
AIに全てを任せるのではなく、人間が判断すべき部分は人間が担うというバランス感覚が求められます。教師がAIを日常的に使い、その長所と短所を理解していくことが、適切な活用につながります。
子どもの前で「調べる姿」を見せることも大事
準備して答えを提示するだけでなく、その場で調べてみせることは、子どもに"学び方のモデル"を示すことにもなります。
わからないことがあったときにどう行動するか、どのように情報を探すかという姿勢を、教師自身が見せることの教育的価値は大きいといえるでしょう。
完璧に準備された授業も大切ですが、時には教師も試行錯誤する姿を見せることで、子どもたちは「学ぶことは探求のプロセスだ」と理解します。
AIの使い方に迷ったり、思った通りの結果が出なかったりする場面を共有することも、貴重な学びの機会となるのです。
おわりに──生成AIがもたらす「伝わった」という確かな手応え
今回の実践の最大の価値は、子どもたちが「伝わった(または伝わらなかった)」という実感を、目に見える形で得られたことです。修飾語は、ただ文を長くするためのものではありません。相手を思い浮かべ、必要な情報を選び取り、適切に配置する技術です。
生成AIは、その学びを加速する強力なツールになり得ます。
「じっくり思考する子が増えた」と語るN先生の言葉が示すように、AIは子どもたちの思考を奪うのではなく、むしろ深める方向に働くこともあります。
適切に活用すれば、生成AIは子どもたちの学びを豊かにする可能性を秘めているのです。生成AIをめぐっては、教育現場でも様々な議論があります。
「子どもたちの創造性を奪うのではないか」「依存してしまうのではないか」という懸念の声も聞かれます。しかしこの実践が示すのは、AIを「思考の補助線」として使うことで、むしろ子どもたちの思考が活性化するという可能性です。
重要なのは、AIをどのように位置づけ、どのような目的で使うかという教師の意図です。
この実践では、AIを「読み手の代表」として位置づけることで、子どもたちの言語感覚を磨く道具として機能させています。
技術そのものではなく、その使い方が学びの質を決定するのです。本実践は、多くの教室にとって、これからの学びを考えるヒントになるでしょう。
生成AIという新しいテクノロジーを、どのように教育に取り入れていくか。
その一つの答えが、ここにあります。大規模な導入を待つのではなく、まずは一人の教師が、一つの単元で、小さく始めてみる。そこから生まれる学びの変化を丁寧に観察し、次の実践につなげていく。
そんな地道な積み重ねが、未来の教育を創っていくのかもしれません。
今回はこれで終わりです。次回もお楽しみに!
<自習ノートについて>
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それでは、また次回の記事でお会いしましょう!





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