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大学受験におけるAI活用の制限について

はじめに

かつて、志望理由書や活動報告書は「自分で考えて書くもの」という前提がありました。

ところが現在では、生成AIという便利な道具が身近となり、生徒たちは短時間で「それらしい文章」を作れるようになりました。AIが書いた文章をそのまま使うことは危険が孕むものの、単に「使うな」という指導もまた、この時代においては違和感を覚えます。

しかしながら、大学入試における生成AIの扱いが、もはや一律ではないという事実もあります。原則として使用を認めない大学もあれば、「そのまま提出すること」は禁じながら、補助的な利用は認める大学もあります。さらに一部では、生成AIを活用する力そのものを評価しようとする動きさえ出てきました。私たち高校教員は、この変化を正面から受け止め、子どもたちにとって誠実で、かつ未来につながる指導を考えていかなければなりません。

目次

  1. はじめに

  2. 背景

  3. 各大学の事例

    山梨大学

    日本大学

    東京学芸大学

    慶應義塾大学(SCF入試)

    早稲田大学国際教養学部(AO入試)

    流通経済大学

  4. 現場ではどう対応していくか

  5. まとめ


背景

文部科学省は、大学入学者選抜における生成AIの扱いについて、国として一律に禁止するのではなく、各大学が自校の教育方針やアドミッション・ポリシーと整合的にルールを定めることを期待しています。

志望理由書や活動報告書、小論文、エッセイなど、受験生本人が記載する資料について、募集要項等で生成AIの扱いを示すことが想定されています。つまり現状では、大学ごとに線引きが異なっているということです。


総合型選抜や学校推薦型選抜においては、学力試験だけでなく、志望理由書、活動報告書、研究計画書、事前課題、プレゼン資料などを通して、受験生の意欲や適性、主体性を多面的に見ようとします。だからこそ、大学側にとっては「それが本当に本人の考えなのか」が重要になり、生成AIの利用に敏感になるのは当然とも言えます。


その一方で、利用の有無そのものを問題にしない方針を示す大学も存在します。出願書類の作成において、生成AIの利用の有無は問わないとしつつも、内容の正確性や著作権への配慮を求め、公平な評価を行うとしています。ここから見えてくるのは、「AIを使ったかどうか」よりも、「何を、どのように、誰の責任で提出するのか」という問いです。


各大学の事例

大学入試における生成AIへの対応は、大学ごとで異なります。しかも、その違いは単なる「使ってよい・使ってはいけない」ではなく、どの書類が対象なのか、どこまでが禁止なのか、判明した場合にどう扱うのか、という点にまで及んでいます。だからこそ、高校現場では「大学ごとの線引き」を丁寧に読み解くことが欠かせません。

以下、一部の大学の事例を紹介します。


山梨大学

山梨大学は、比較的厳格な姿勢を明確に示している大学の一つです。出願時に受験生自身が作成して提出する書類、たとえば多面的・総合的な評価のための申告書、志望理由書、研究計画書などについて、生成AIにより生成された文章等をそのまま使用することは一切認められないとしています。さらに、それが判明した場合には不正行為とみなし、合格を取り消すとまで明記しています。高校教員としては、「便利だから少しだけ使う」という安易な感覚では済まされない大学が現実にあることを、生徒にきちんと伝える必要があります。入学者選抜における生成AIの取扱いについて | 山梨大学


日本大学

日本大学もまた、生成AIに対して明確な線引きを示しています。入学者選抜において、出願時に提出したり試験当日に持参したりする事前課題、レポート、小論文、志望理由書、研究計画書、創作物などについて、生成AIによって生成されたものを受験生独自の成果物とは一切みなさないとしています。そのうえで、特段の指示がない限り、入学者選抜において受験生が生成AIを使用することは認めないとしています。つまり、大学側は「内容がもっともらしいか」ではなく、「その成果物が誰のものなのか」を見ているということです。入学者選抜における生成AIツールの取扱いについて | 日本大学


東京学芸大学

東京学芸大学は、教育者養成を担う大学らしく、「自分の言葉で書くこと」の価値を前面に出しています。『「入学希望理由書(総合型選抜)」「志願理由及び活動報告書(総合型選抜を除く全選抜)」その他の出願書類を作成する際には、「チャットGPT」などの生成AIを利用しないでください』と明記しています。そのうえで、受験生それぞれの思いや考え方に基づいた文章を記載してほしい、自分自身の言葉で志望理由や目標を記載してほしいと呼びかけています。禁止の言葉は比較的穏やかであっても、その背景にある教育観は極めて明快です。令和6年5月13日 東京学芸大学入試課 出願書類作成における生成AI の利用について


慶應義塾大学(SCF入試)

慶應義塾大学SFCのAO入試も、創価大学と近い方向性を示しています。生成AIは、適切に活用することで問題発見・解決のプロセスを促進しうる一方、頼り切る使い方は適切ではないとしたうえで、補助的ツールとして利用することは構わないとしています。しかし、出願時に提出が求められる「志望理由」「入学後の学習計画」「自己アピール」「任意提出資料」について、生成AIによって生成されたものを受験生独自の成果物とはみなさないとも明記しています。SFCらしいのは、AIを否定するのではなく、AIと共存する時代においても最後は本人の思考と責任が問われる、という設計思想をはっきり打ち出している点です。AO入試募集要項における「生成 AI に関する取り扱いについて」の追記について | 入試お知らせ 一覧 | 総合政策学部/環境情報学部/大学院政策・メディア研究科(SFC) | 慶應義塾大学


早稲田大学国際教養学部(AO入試)

早稲田大学国際教養学部は、2026年度以降のAO入試で、それまで出願書類として提出させていた志望理由書を取りやめ、筆記審査当日に「志望理由に関するエッセイ(日本語)」を書かせる方式へ変更となりました。大学は生成AI対策と明言してはいないものの、生成AI時代における本人性確認の強化として読むことができると考えられます。2026 年度以降の国際教養学部 AO 入学試験(4月入学・国内選考)変更点について


流通経済大学

流通経済大学は、さらに先を行く事例として見ておきたい大学です。総合型選抜の「課題チャレンジ型」において、「生成AI利用タイプ」を設け、自分の経験に基づいて設定した課題について、生成AIを利用して考えた解決策を試験当日にプレゼンテーションさせる方式を打ち出しています。ここでは、生成AIの利用を隠すのではなく、どのように使い、どのようなプロンプトで、どのような解決策に到達したのかを説明する力そのものが見られます。大学入試は、生成AIを排除するだけの時代から、生成AIとどう協働できるかを評価する時代へ、一歩ずつ動き始めているのです。総合型選抜 課題チャレンジ型 | 受験生応援サイト With Ryuhei | 流通経済大学


現場ではどう対応していくか

まず何より重要なのは、自分の考えを自分の言葉で表現できるかという点が、志望理由書等を作成する上での基本中の基本です。志望理由書や自己PRは、大学が受験生本人の関心や経験、学ぶ意欲を見極めるための書類であり、その作成の原点はあくまで本人にあります。AIを使うかどうか以前に、「なぜこの大学・学部を志望するのか」「何を学びたいのか」「自分はどのような経験を通してその考えに至ったのか」を、自分自身で整理し、自分の言葉で語れることが大切なのです。

一方で、アイディア等の自分自身の考えが思い浮かばないときや、考えをうまく整理できないときに、AIを補助的に活用することは有効であると考えます。たとえば、論点の洗い出し、構成の整理、表現の見直しといった用途であれば、自分の考えを深める手がかりになり得ます。ただし、AIが生成した文章をそのまま用いるのではなく、内容を自分で確認し、自分の経験や意図に照らして取捨選択したうえで、自分の言葉として書き直す姿勢を欠かせてはいけません。

その上で、実際に作成・提出する際には、各大学が示している募集要項や出願上のルールを必ず再確認した上で、AIを補助的に使用するのか、または一切使わないかを判断していくことです。一般論で判断するのではなく、志望先ごとの方針を確認し、そのルールに沿って適切に対応することが重要です。


まとめ

大学入試における生成AIの扱いは、今まさに過渡期にあります。原則禁止の大学もあれば、補助利用を認める大学もあり、さらにAI活用そのものを評価しようとする大学も現れています。だからこそ高校教員に必要なのは、流行に流されることでも、頭ごなしに否定することでもなく、大学ごとの方針を丁寧に確かめ、生徒に「本人性」と「責任ある活用」の両方を教えることであると考えます。

便利な道具が増える時代だからこそ、最後に問われるのは、その生徒が何を考え、何を経験し、そして、なぜその進路を選ぼうとしているのかという根本です。その核を守り、磨き、言葉にさせることが我々教員の役割です。生成AIの時代であっても、いや、生成AIの時代だからこそ、進路指導の本質は変わりません。自分の人生を、自分の言葉で語れる若者を育てること。その営みを、私たちはこれからも大切にしていきたいものです。

 
 
 

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